欧州委員会、外国補助金規則(FSR)に基づく初の詳細調査を開始

EU の外国補助金規則(以下「FSR」)に基づく届出義務は 2023 年 10 月 12 日に発効しましたが、そ の後、欧州委員会は公共調達手続に関する FSR の届出に&
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(1) EU 外国補助金規則の積極的な執行

EU の外国補助金規則(以下「FSR」)に基づく届出義務は 2023 年 10 月 12 日に発効しましたが、そ の後、欧州委員会は公共調達手続に関する FSR の届出について、3 件の詳細調査を開始しています。 この FSR に関する直近の調査状況からは、FSR の執行に関する欧州委員会の積極的な姿勢が明らか になっており、FSR が EU 域外の企業に与える潜在的な影響があらためて示唆されているといえます。

  • これら 3 件のうち、最初の詳細審査は、中国の国有鉄道メーカーである中国中車(CRRC Corporation)の子会社である中国中車青島四方機車車輛股份有限公司(CRRC Qingdao Sifang Locomotive Co., Ltd.)に対して行われています 1。同社は、ブルガリアの運輸通信省が行 った「プッシュプル方式」の電気列車プロジェクトに関する公共調達手続に関し、2024 年 1 月 22 日 に FSR に基づく届出(complete notification)を完了したところ、同年 2 月 16 日、欧州委員会は、 予備審査(第 1 次審査)の結果、「届出会社が域内市場を歪める外国補助金を与えられた十分な 兆候がある」として、詳細調査(第 2 次審査)を開始したと公表しています 2。届出の完了から欧州 委員会が最終的な判断を行うまでには 110営業日の審査期間があったものの、詳細調査の開始を 受けて、届出会社は本件の公開入札手続から撤退しました 3
  • 続いて、欧州委員会は、2024 年 4 月 3 日、ルーマニアの契約当局(公共調達の契約締結権限を 有する contracting authority)による、ルーマニアでの太陽光発電パークの建設・運営計画に関す る公共調達手続に関与している中国企業 2 社に対して、それぞれ詳細調査(第 2 次審査)を開始 しました 4。これら 2 件の詳細調査について、いずれの調査対象企業も 2024 年 3 月 4 日に届出を しているため、当該詳細調査は 2024 年 8 月 14 日までに終了する予定です。

さらに、2024 年 4 月 9 日、欧州委員会上級副委員長である M.ヴェスタガー氏は、中国の風力タービ ン供給業者に対して、欧州委員会が初めての職権上の調査を開始したことを明らかにしました(もっとも、 現段階では、調査の詳細は明らかにされていません 5。)。

現時点では、欧州委員会による FSR に基づく具体的なアクションは中国企業を対象としていますが、 これは中国企業ではない EU 域外企業に対して FSR の適用範囲が及んでいないことを意味するもので はありません。本ニュースレターでは、FSR の存在感が増していることを踏まえ、2024 年 2 月に公表され た欧州委員会の報告書に基づく最新情報を基に、届出義務の概要と手続上の注意事項及び EU 域外 の企業への実務的な影響について解説します。

(2) 届出義務の概要

FSR は、2023 年 1 月 12 日に発効し、同年 7 月 12 日に施行されました。詳細は当事務所の EU 法 ニュースレターで解説していますが 6、欧州委員会は、FSR に基づき、EU 域内で活動する企業に対して 非加盟国が付与した補助金に対する審査・調査をすることができるようになりました。具体的には、公共 調達及び相当規模の企業結合に関する届出制度、(欧州委員会による)職権上の調査並びにより広範 な市場調査等の複数の方法を通じて、欧州委員会による審査・調査が行われることとなります。FSR は、 EU 加盟国が提供する補助金は何十年にもわたり EU の国家補助規制(State Aid)に基づく厳格な規制 に服している一方で、(EU 域外の)第三国により提供される補助金については基本的にチェックが行わ れていなかったという状況を是正することを目的としています。すなわち、FSR は、EU 域内市場において より公平な競争条件を確保することを目指すものといえます。

FSR の下では、売上高基準と外国からの資金的貢献(Foreign Financial Contribution。以下「FFC」) 基準の双方を満たす場合、企業は当該取引を欧州委員会に届け出る義務があります。企業結合及び 公共調達に関する届出基準は、それぞれ、下表のとおり設定されています。

企業結合(FSR20 条) 公共調達(FSR28 条)

(i) 合併当事会社、(買収)対象会社又は合弁 会社の少なくとも 1 社が、EU において設立 され、前会計年度に EU 全体で少なくとも 5 億ユーロの売上高を計上している場合。

(ii) 企業結合の当事者である企業が、過去3年 間に、合計で 5000 万ユーロを超える FFC を受けている場合。

(i) 入札規模が 2 億 5000 万ユーロ以上である 場合。

(ii) 事業者が、過去 3 年間に、非加盟国 1 か 国あたり 400 万ユーロを超える FFC を受け ている場合。

FSR が定める FFC には、(i)資金又は負債の移転、(ii)収益の見送り又は(iii)物品及びサービスの提供 又は購入などが含まれます 7 8。FFC は、中央政府若しくはその他の公的機関、外国の公共団体又はそ の行動が第三国に帰属するものと考えられる民間団体により提供される必要がありますが、FFC が市場 での取引条件で提供されているかや(制限なく)一般に受けることができるか否かにかかわらず、企業によ る届出義務を決定する要素となります 9

2024 年 2 月には、企業結合に関する届出義務の開始から最初の 100 日間の動向を精査した欧州 委員会の最初の FSR 報告書が公表されました。当該報告書の時点で、欧州員会は 53 件の事例を調 査し、そのうち 42 件は EU 企業結合規則(以下「EUMR」)に基づく調査を並行して受けました。このうち、 最も一般的な類型の FFC は資本注入と出資でしたが、報告書によれば、金融機関からの融資も FFC に該当し得るほか、国家保証、特定のプロジェクトに対する直接交付金や税制上の優遇措置(特に、研 究開発費及び投資プロジェクトに対するもの)も、頻繁に FFC として認定される傾向にあります。

(3) 届出義務に関する注意事項

届出義務の有無は届出を行う当事者が自ら分析しなければなりませんが、欧州委員会は、届出書の ドラフトを当事者から受領した上で、届出義務の有無や、必要な情報が正確に報告されているかを確認 することとなっています。

売上高基準と企業結合の類型

当事者は、届出義務の適切な分析のために、当該企業結合が買収、合併又は合弁事業のいずれで あるかを正確に認定する必要があります。これは、当該企業結合の取引の性質に応じて、当該取引に関 与する企業のうちどこまでの範囲が FSR の届出基準の適用対象となるかが異なってくるためです 10。す

なわち、企業結合の類型によって、届出義務の判断に際して重要な手続上の差異が生じ得ます。例え ば、買収では、対象会社の売上高のみが売上高基準に関して考慮されるため、当事者が誤って「合併」 を「買収」と捉えてしまった場合を想定してみると、合併当事会社のうち 1 社(EU 域内売上高が 5 億ユ ーロ未満)が「対象会社」、もう 1 社の合併当事会社(EU 域内売上高が 5 億ユーロ以上)が「買収会社」 である「買収」として届出基準の分析をすると、(「買収」の場合は届出基準を満たさないこととなる一方で) 実際には「合併」の場合の届出基準が充足されるため、(FFC の基準が満たされれば)当事者は届出義 務(及び欧州委員会からクリアランスを得るまでの間の取引実行禁止)に違反することになります。

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Footnotes

1 Commission opens first in-depth investigation under the Foreign Subsidies Regulation

2 脚注 1 参照

3 Chinese Train Maker CRRC Drops Bid for $665 Million Bulgarian Contract - WSJ

4 Commission opens two in-depth investigations under the Foreign Subsidies Regulation in the solar photovoltaic sector

5 A lecture on technology and politics (europa.eu) 6 FSR の詳細については、当事務所の欧州法務ニュースレター(2023 年 3 月号、2022 年 8 月号)を参照

7 欧州議会・理事会規則 2022/2560 3.2 条

8 The Foreign Subsidies Regulation – 100 days since the start of the notification obligation for concentrations

9 脚注 8 参照

10 なお、「企業結合」、「合併」、「合弁事業」及び「被買収企業」の概念は EUMR と同様と考えられています。

Originally published 6 June 2024

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