反トラスト法への抵触を理由に合併を差し止める政府当局の積極的な傾向は、2022年末まで続き、当局が関わる裁判において様々な結果が現れた。注目を集める多くの調査案件は継続中であり、積極的な執行は今後も継続すると見込まれる。以下注目すべき進展を示した合併執行手続に関する事例を3件紹介する。
裁判所、大規模出版社2社の合併を差し止める
2021年11月、米国司法省(DOJ)は、合併が「トップセラーになることが見込まれる本」に関する権利獲得市場における競争を大きく減少させ、クレイトン法第7条に違反する旨主張し、Penguin Random House社とSimon & Schuster社の合併の差し止めを求めて連邦裁判所に提訴した。裁判所は、2022年8月に12日間のトライアルを開催し、10月に合併を差し止める命令を発出した。当該判断では、裁判所は、合併後の会社が本に関する権利の交渉でより強い交渉力を行使し、著者に支払われる前払金の減少という形で競争上の弊害を生むと判断した。DOJが勝訴したことで、労働市場などの川上「投入」市場に競争上の弊害が起こる買い手独占事案に対する執行がより活発になる可能性がある。
DOJ、Booz Allen社によるEver Watch社の買収の差し止めに敗訴
2022年6月、DOJは、防衛関連企業であるBooz Allen社によるEverWatch社の買収の差し止めを求めて提訴した。EverWatch社は、テクノロジー企業であり、進行中のアメリカ国家安全保障局との契約に関する入札手続におけるBooz Allen社の唯一の競合企業であった。当該訴訟では、本件買収は、契約により両社が競争力のある入札をするインセンティブを直ちに失わせるものであることからシャーマン法に違反し、買収が実行された場合にはライバル間の将来の競争を失わせるものであることからクレイトン法に違反するとして、シャーマン法およびクレイトン法の両者に違反している旨の主張がなされた。DOJは、シャーマン法に関する主張についてのみ仮差止命令を求めたが、裁判所は買収が見込まれていたとしても両社は引き続き競争力のある入札を行うインセンティブを有しているとして、これを棄却した。この敗訴を受けて、DOJは、Booz Allen社またはEverWatch社が米国国家安全保障局との契約に関する入札から撤退する場合には、再度手続を再開する旨を示した上で、請求を棄却することを認めた。
FTC、Microsoft社によるビデオゲーム会社であるActivision社の買収の差し止めを求めて提訴
2022年1月、Microsoft社は、Activision Blizzard社を687億ドルで買収することに合意した。ビデオゲーム業界における大手であるActivision社は、様々なデバイスで利用できるDiabloやCall of Dutyなどのクオリティの高い「AAA」ゲームを作成し発行していた。2022年12月、FTCは、インハウス行政裁判所に提訴し、本件取引に異議を申し立てた(欧州委員会が本件取引を審査中であったため、本件取引はクロージングを迎えることができない状況にあり、そのためFTCは米国連邦地方裁判所に差止めを求める必要がなかった)。FTCは、企業結合後の会社は、Activision社のゲームをMicrosoft社のXbox限定にしたり、PS5に互換性があるバージョンの価格を上昇させたりすることにより、ビデオゲームの主要な競合先であるSony社に不利益を与えるインセンティブを有し、それによりビデオゲーム消費者に不利益を与える、と主張した。FTCは垂直統合ガイドラインを改正中であるが、この行政訴訟は、垂直統合に関する将来の執行の先駆けになる可能性を有するものといえる。
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