2022年7月28日、ミシガン州最高裁判所は、エリオット・ラーセン市民権法で禁止される性別に基づく差別には、性的指向に基づく差別も含まれるとの判断を下しました(Rouch World LLC vDepartment of Civil Rights, No. 162482, July 28, 2022.)。

バックグラウンド

今回の判決に関連するバックグラウンドとして、2つの事件が挙げられます。1つ目の事件は、RouchWorldという会社が、同社が運営するミシガン州南西部所在のイベントセンター施設で、同性の結婚式の主催を拒否したという事案です。RouchWorldは、拒否の理由として、同性の結婚式の主催またはその式への参加は、結婚が1人の男性と1人の女性との間行われる神聖な儀式であるとの宗教的信念に反すると説明しました。この拒否に対して、同性婚カップルは、Rouch      Worldの行為はミシガン州市民権委員会による、法的拘束力を有しない解釈声明2018-1(エリオット・ラーセン市民権法の「性別に基づく」という文言には、性的指向やジェンダーアイデンティティに基づく差別を含むといった内容の声明)に違反すると主張しました。

2つ目の事件は、Uprooted    ElectrolysisLLCが、トランスジェンダーの女性に対して脱毛サービスを提供することは、性別は神からの不変の贈り物であるという真摯な宗教的信念に違反することを理由に、サービス提供を拒否した事案です。トランスジェンダーの女性は、この拒否に対して性差別を主張しミシガン州市民権委員会に苦情を申し立てました。

ミシガン州市民権委員会が両事案について調査を開始したところ、差別を主張された各企業が共同で、性的指向やジェンダーアイデンティティはエリオット・ラーセン市民権法の「性別に基づく」という文言に含まれないとの宣言的判決を求めてミシガン州市民権委員会を提訴しました。第一審では、性的指向はエリオット・ラーセン市民権法の範囲外と判断したミシガン州控訴裁判所の判例(Barbourv.DepartmentofSocialServices,198Mich.App. 183(1993))に拘束されることを理由に、性的指向に基づく差別はエリオット・ラーセン市民権法が禁止する差別には含まれないとの判断が下されました。他方、前述のBarbour事件はトランスジェンダーに基づく差別の事案ではないことを理由に、エリオット・ラーセン市民権法は、トランスジェンダーに基づく差別を禁止するものであるとの判断がなされました。

ミシガン州市民権委員会は、性的指向に関する差別について、控訴審の判断を仰ぐため控訴許可の仮申請を行った後、さらにミシガン州最高裁判所に対して迂回申請を行い、今回これが認められました。

ミシガン州最高裁判所は、性別に基づく差別には性的指向に基づく差別が含まれるものと判断し、Barbour事件における控訴裁判所の判断を覆しました。

しかし、ミシガン州最高裁判所は、ジェンダーアイデンティティに基づく差別については上訴の対象となっていないことを理由に、判断を下しませんでした。ミシガン州最高裁判所の今回の判断は、公民権法タイトルⅦが禁止する個人の性別を理由とする従業員解雇には、必然的に性的指向やジェンダーアイデンティティによる差別をも含むとの判断を下した連邦最高裁判所の判例 (Bostockv.ClaytonCompany,590U.S.140,S.Ct.1731; 207L.Ed.2d2018(2020))の影響を多分に受けているものと思われます。

この判決が持つ意味とは?

今回の最高裁判所に判断がミシガン州の雇用主に及ぼす影響は小さいものと考えられます。前述の連邦最高裁判所の判決(Bostock事件)が15名以上の従業員を雇用する雇用主に以前より適用されてきたため、15名未満の従業員を雇用する雇用主のみが、今回のミシガン州最高裁判所による判断によって法的な影響を受けることになります。その他に考えられる大きな影響は、従業員がエリオット・ラーセン市民権法に基づいて州裁判所に提訴することが可能となり、公民権法タイトルⅦに基づく訴訟を提起するために雇用機会委均等委員会(EEOC)からのレターを取得する必要がなくなった点が挙げられます。しかしながら、多くの従業員は連邦裁判所および州裁判所の両方に訴訟提起する可能性が高いた

め、今回の判断による影響はそれほど大きくないと思われます。

残された課題とは?

RouchWorld事件において、ミシガン最高裁判所は、脚注で「性的指向とジェンダーアイデンティティに基づく差別に対し

て、ELCRAの適用が企業側の宗教的自由の保護を侵害するか否かは判断されておらず、当裁判所もその問題については判断しない」としています。このことから、差別の主張と宗教的自由の主張の対立は、州レベルでも連邦レベルでもまだ決定的な解決には至っていません。この問題は多くの雇用主にとっては影響ないかもしれませんが、ミシガン州に置いて影響を受ける可能性のある雇用主は、具体的状況、リスクについて弁護士と相談することが望ましいといえます。

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